着床不全・不育症

着床不全

着床現象は不妊診療の中で‘ブラック・ボックス’のまま取り残されています。

着床したかどうかは、胚移植のあと妊娠反応を確認できる時期まで待つよりほかありません。

それでも「着床不全」の克服へ向けてさまざまな取り組みが行われております。

リプロダクションクリニックではどの時期でうまくいかないかにより、下記のオプション検査をお勧めしています。

着床障害 着床~判定日 化学流産 流産
慢性子宮内膜炎(BCE検査)
子宮収縮(エコー動画検査)
銅亜鉛検査
25ヒドロキシビタミンD検査
不育検査
着床不全に関わる「慢性子宮内膜炎」

慢性子宮内膜炎は、子宮内細菌感染による慢性炎症により子宮内膜にCD138陽性細胞が出現した状態です。

CD138陽性細胞は受精卵を妨害しようとします。

「BCE検査」では子宮内膜を採取し、CD138陽性細胞免疫染色にて判定します。

「慢性子宮内膜炎」は3回以上連続して繰り返す「反復着床不全」の患者さんの34%に見つかることが、私たちの調査により明らかになりました。

「慢性子宮内膜炎」には治療に抗生剤として「ドキシサイクリン」を2週間の服用することにより約9割が治ります。

さらに残り1割の抵抗例に対しては他の抗生剤の組み合わせを2週間内服することで「慢性子宮内膜炎」のほとんどが克服できます。それでも治らない場合もありますが、治さないまま移植しても良い結果は期待できませんので、さらに他の抗生剤への変更や組み合わせ・繰り返し等によりしっかり治していきます。

このように抗生剤を処方し再検査で「慢性子宮内膜炎」が治ったのを確認した後に胚移植するという治療方法により、良好な成績を得ております。

子宮収縮(エコー動画検査)

月経周期中の子宮収縮には変化があります。

生理中は上から下に動いて月経血の排出を助け、排卵期は下から上に動いて精子の受け入れを助け、着床期は動きが止まり受精卵を待っている状態です。

エコー動画検査では、着床期にエコーを3分間撮影し、10倍速で分析します。

正常であれば、子宮収縮は着床期には見られません。

着床期に子宮収縮の所見があると、受精卵の着床を妨げる原因となります。

そのため、着床期に子宮の動きを治める薬剤を服用していただきます。

銅亜鉛と着床

子宮内に銅の避妊具を挿入すると避妊効果は100%となります。これは銅に着床を妨害する働きがあるからです。

このため、子宮内膜に銅が沈着すると、避妊具と同じ効果が出てしまうことが考えられます。

銅と亜鉛は同じチャンネルから血中に取り込まれるため、血管内の銅濃度が高い方は、亜鉛サプリの服用で着床障害が治せると考えられます。

Wilson病ではセルロプラスミンがないため銅があらゆる臓器に沈着し不妊・不育にもなります。

Wilson病の方に亜鉛サプリを用いたところ、血管内の亜鉛が増え、銅が減り、妊娠出産に至った症例が報告されています。

25ヒドロキシビタミンD検査

ビタミンD不足は、

1.卵の数や質の低下

2.妊娠率低下

3.不育症

4.妊娠合併症(妊娠中毒症、妊娠糖尿病、低体重児など)

などと関連します。上記の他にも多嚢胞性卵巣(PCOS)・子宮筋腫・子宮内膜症とも関連すると考えらてれています。

血中ビタミンD濃度が低い場合、ビタミンDサプリメントを服用していただくことにより、改善を図ります。

ERPeak検査

ERPeak検査は、胚受容能検査で「遺伝子発現パターン」を用い、いわゆる「着床の窓」のずれを調べます。

着床の窓をずらして移植することにより、妊娠に至った方も多数おられます。

 

当院では、ただ単に着床の窓の検査をするだけではなく、過去に移植した時の胚の状態(グレード、回復状況)、治療歴、妊娠歴・着床歴等を全て考慮した上で、検査結果をベースに最適な移植時期をご提案いたします。

不育症

不育症の定義は米国と欧州で異なっています(米国では2回以上の流産、欧州では化学流産を含めた3回以上の流産)。

また、不育の領域は非常に進歩が早いため、25年前の検査と現在の検査は約半数が入れ替わっています。従って、毎年のアップデートが欠かせません。

さらに、検査項目は「原因」ではなく「リスク因子」ですので、「リスク因子」があっても何ら問題が生じない方がおられるのも事実です。このため治療の線引きが難しくなっており、施設毎に検査項目が異なるばかりでなく、治療の基準や治療方法も異なります。このような混沌とした状況にあるのが不育症です。

そこで、常に世界各国の論文に目を光らせ、新しい取り組みを実際に行い、取捨選択して、自らエビデンスを構築する必要があります。このように、不妊症の世界とは全く別世界なのが不育症であり、不育症の専門医と不妊症の専門医は全く異なっているのが現状です。

しかし残念ながら、不育症専門医の多くは大学病院に勤務しており、不育症専門のクリニックは不育症診療のみを行っています。従って、これまでは不育症と不妊症それぞれのクリニックを掛け持ちする必要がありました。

当院は、不育症と不妊症の双方に秀でた医師がおりますので、1つのクリニックで不育症と不妊症の高度な診療が同時に受けられます。これは極めて貴重なことであり、かつ患者さんにとってもメリットが大きなことだと思います。不育症と不妊症を同時に診療することによる成果は、当院の高い妊娠率と低い流産率に如実に現れています。

2010年の厚生労働省の研究で、不育の原因として上記の調査結果が報告されています。