グラフは、1998年WHO(世界保健機関)が発表した不妊の原因の割合です。
泌尿器科医として日々診察をしていると、男性側の原因はもっと多く、約6割ほどという印象です。
(女性が原因の場合と重複有り)
WHOの調査からすでに20年以上経過していますが、当時は男性不妊があまり注目されておらず、精液検査をする機会が少なかったと考えられます。
現在は不妊専門クリニックにご夫婦で受診される方が多く、男性の精液検査は不妊検査の必須項目です。
精液検査では、精液量、精子濃度、運動率、運動の質、精子の形態、感染の有無などを検査します。
精子は、陰嚢の中の精巣(睾丸)でつくられます。精巣内には精細管という細い管が1000本以上も詰まっていて、その一本一本に精子のもととなる細胞が生まれ、約74日かけて精子がつくられます。精子は精巣上体を通ることで、運動性や受精する能力を高めて成熟します。射精のときには、40cmという長い精路を通って、尿道の出口から体外に排出されます。
精子をつくる機能(造精機能)や精子の通り道(精路)に問題があると妊娠しにくくなります。
精子に問題があっても、自覚症状はなく、自分で気づくことはまずありません。精巣から出ている血管にこぶができる精索静脈瘤のために造精機能が低下したり、子供の頃の鼠径部や腹部の手術によって精路が詰まる場合もあります。また、原因がわからないケースも多いのが現状です。
精液中に精子がいない無精子症の方は、かつては妊娠が望めませんでしたが、現在はTESEによる精巣精子使用の顕微授精で、妊娠の可能性が広がっています。
禁 煙 |
喫煙が生殖機能に及ぼすマイナスの影響については、これまで多くの報告がなされています。 喫煙は、勃起不全(ED)の原因ともなります。さらに、精子形成にも影響を及ぼし、精子の運動率を低下させたり、異常な形態をした精子の出現頻度を高める傾向があります。 運動性の低い精子や異常な形態の精子は受精能力が低いため、男性不妊の原因となります。また、受精に成功したとしても、流産や先天性疾患に関するリスクの上昇が懸念されます。 |
ブリーフよりトランクスを |
精巣付近の温度が高いと精巣の機能が衰えてしまいます。 ですから、下着は体温がこもるブリーフよりも、風通しの良いトランクスがおすすめです。 |
サウナに長時間入らない |
高温のサウナは精巣を熱にさらすことになります。 熱くなったイスに座ると、精巣の温度がますます上がってしまうので気をつけて下さい。 |
ノートパソコンを膝にのせない |
パソコンは熱を放出します。 膝にのせて作業をしていると、その熱が下半身に伝わって、精巣の温度が上がってしまうので、要注意です。 |
禁欲しすぎない |
精子は常に生産されていますので、射精を多く繰り返すことで精子の量が減るということはありません。 逆に禁欲期間が長すぎると精子の運動率が低下するうえ、精子のDNA損傷率も高くなる傾向があります。 精子の生存期間はおよそ3日ですので、それ以上ためると、死滅精子(非運動精子)が増えてしまいます。 精子の質をよくするには、禁欲期間は1~2日くらいがよいと考えられます。 |
その他にも飲酒は適量に、自転車、バイクに乗りすぎない、放射線に要注意、育毛剤を飲まない、規則正しい生活をおくるなどに気を付けることにより精子の状態の悪化を防ぐことができます。
男性不妊には、多い順から下記の原因があります。
乏精子症
無精子症
精子無力症
勃起障害(ED)
精液検査で、精子の数が1ml中1600万を下回る状態をいいます。
精子の運動率やまっすぐに進む率、高速で動く率などもみて、総合的に判断します。自然妊娠するには1ml中4000万以上が望ましいとされます。
精子の数が少ない原因には、精索静脈瘤のほか、精巣の働きが悪く精子がつくられにくい造精機能障害などがありますが、原因不明も多いのが現状です。
項目 | 基準値 |
精液量 | 1.4ml以上 |
精子濃度 | 1600万/ml以上 |
総精子数 | 3900万/射精以上 |
前進運動率 | 30%以上 |
総運動率 | 42%以上 |
正常精子形態率 | 4%以上 |
精巣からの静脈の血液が滞り、こぶのようにふくらむものです。
精子をつくる環境は体温より少し低めが理想ですが、精索静脈瘤があると、陰嚢があたためられ、精子がつくられにくくなります。2人目不妊としても多いものです。
精液検査や、陰嚢を見たり手でさわって静脈瘤がないかどうかを確認します。超音波(エコー)検査を行うこともあります。
軽度の場合は、漢方薬やビタミンEを服用します。 また、同時に人工授精にトライします。それでも妊娠しなければ、ステップアップして、体外受精・顕微授精を行います。
根治治療には手術(低位結紮術など)があり、奥様の年齢も考慮しながら検討します。
精索静脈瘤の手術法の一つとして、低位結紮術を行います。
鼠径部を2cmほど切開し、顕微鏡を使って精索の中の静脈を結び、こぶを解消する方法です。
全身麻酔で行う場合は入院が必要ですが、局所麻酔で行う場合は日帰りも可能です。
精子をつくる機能に問題がある状態です。精索静脈瘤、おたふくかぜなどの高熱による精巣炎、幼児期に高い位置にあった精巣が陰嚢内に下りてこなかった「停留精巣」なども影響することがあります。
精液検査や、視診・触診、ホルモン検査などを行います。
漢方薬やビタミンEを服用します。 それと、並行して人工授精を行います。それでも妊娠しなければ、体外受精・顕微授精にステップアップを考えます。
射精した精液中に精子が見あたらない状態をいいます。無精子症には、精子が全くつくられていない場合(非閉塞性無精子症)と、精子がつくられていても通路がふさがっている場合(閉塞性無精子症)とがあります。
閉塞性は手術によって精子の通り道を再建(精路再建術)することができます。その後、女性側に問題がなければ自然妊娠も可能になります。
非閉塞性の場合でも、精巣の中で精子がわずかにつくられている場合があるので、精巣を開けて、手術用顕微鏡を用いて精子を探します。この手術を「顕微鏡下精巣精子採取術」(Micro-TESE)といいます。
また、射精した精液が膀胱に入ってしまう逆行性射精の場合は、膀胱内から精子を回収して、人工授精を行います。
顕微鏡下精索精子採取術と呼ばれる手術で、主に「非閉塞性無精子症」の方を対象に行います。
精巣を切開し、手術用顕微鏡下で精巣組織を観察し、よりよい状態の精細管を選別して採取する方法です。 採取した精細管を細かく刻み、精子を見つけ出します。
片方の精巣で精子が回収できない場合は、もう片方の精巣も切開します。精子を回収できたあとは、顕微授精を行います。
手術中に痛みはほとんどありませんが、術後は違和感が5~6日残るケースが多くあります。日帰り、局所麻酔で手術が可能です。
閉塞性無精子症の場合、運動精子が多量に見つかることが多く、切開から縫合まで手術時間は10分程度ですみます。
TESEの合併症として、出血、感染、男性ホルモン低下が考えられます。
精液検査で前進する精子が40%未満の場合、精子無力症と診断されます。
何らかの理由で精子をつくる機能が低下していると考えられます。乏精子症と重なっておこることが多いのが特徴です。
精子の質の改善を目的に漢方薬やビタミンEを服用したり、人工授精を行います。それでも妊娠しないときは体外受精や顕微授精を視野に入れます。
セックスのとき十分に勃起しない、勃起が続かないことをいいます。マスタベーションは可能であるが、性交渉のときは勃起しないというパターンも多くあります。
典型的な例としては男性が性交渉に神経質になっていることです。妻から「今日は子どもをつくる日」「今日でないとまた来月になってしまう」などといわれると、途端に状態が悪くなる場合もあります。
バイアグラなどのED治療薬を服用します。(セックスの30分~1時間前)セックスに対するプレッシャーを感じないようにリラックスして過ごしましょう。